図書委員の月本真紀が、俺のために何でもしてくれる。
別に彼女とかじゃなくても、何でもさせてくれる。
つまりは、都合のいい女になってくれる──。
それが本当に実感できたのは、次の日のことだった。
もしかしたら昨日のアレは、冗談だったのかもしれない。俺をからかうために一発ぶち上げた嘘か何かで──実はあの時、廊下には彼女の友達が息を潜めて笑いをかみ殺していたのではないか……。
そんな風に考えた俺は、ちょっと確かめやろうと思ったのだ。昼休み、人気のない場所に月本を呼び出して問いただした。
「なぁ、昨日のことなんだけど」
「ん?」
ああ、今日も可愛いな月本。サラサラのショートカットに、ふちなしメガネ。下から見上げるその瞳は無邪気に輝いていて、見ているだけでどうにかなってしまいそう。
ハッキリ言って、今までは別に何とも思っていなかったクラスの女子なのに。あんなことを言われたからか、一瞬にして彼女の魅力は俺の中で爆発していた。
「ああと、うん、昨日のことだけど……あ、あれさ、冗談だよね?」
「ん? 冗談? 別に全然冗談なんかじゃないけど?」
さらっと言ってのける月本。
まさか今日も誰かが隠れて俺たちの様子を見守っているのか? さすがにもういいだろう。
彼女の後ろをちらちらと覗き見てみる。が、人影は見えない。けれど、きっとどこかでクスクスと俺のことをバカにしている奴がいるに違いないのだった。
誰だ? 月本と仲のいい奴といえば……浅野祐子か? 今生なつみか?
なら、こっちからお返ししてやるのも面白いかもしれない──そう思って、俺は思い切って月本の手を握った。
「おい、からかうのもいい加減に──」
想像以上に小さく、柔らかい女の子の手──俺はめったに得ることのできないその感触に、一瞬言葉を失う。
目の前には、不思議そうな顔をして俺の顔を覗き込んでいる月本の姿がある。
意味もなく手を握られているというのに、何の反応も返してこない。そうされるのが当然といった様子である。
彼女の後ろを見ても、誰かが騒いでいるという感じもしない。
なんだこれ……まさか。
心臓がバクバクしている。口の中が妙に渇く。
俺は彼女の手を掴んだまま、それを高いところにまで上げて──もう片方の手で、夏服から伸びる彼女の二の腕を触ってやった。
もうエロい親父がそうするように、いやらしい感じで揉み回しまくりだ。
さすがにこんなことをすれば、俺たちのことを観察している誰かさんたちだって笑いながら「やめろやめろ」と言って姿を現すはずである。そう思ってのことだった。
が。
シーン。
人気のない場所なんだから、もちろん人の気配はない。この場所には俺たち二人だけということが嫌でも分かってしまうそんな状況。
休み時間の喧騒も遠く、どこか別次元での出来事のように思えてしまう。
月本真紀は、俺に腕を上げさせられ、さらには露出した肌をさわさわと撫で回されているのに、まったく表情を変えようとしない。
さっきと同じように、この行為には何の意味があるの? といった感じで無邪気な表情のまま俺のことを見上げているのだ。
俺は戸惑った。手のひらからは、未成年女子の肌の感触がじわじわと伝わってきていて──、
「あああッ──」
ダッシュ。
思春期男子にはとてもじゃないが耐え切れない魅力的なその手触りに、俺は迷いに迷って──そしてついには、走ってその場を去るという愚行に出るしかなかったのだ。
いや、それだけじゃない。もちろん月本の何でもさせてあげますオーラにやられたのもあったけれど、頭の中では──好きな人のことを考えていたからだということもあるのだ。
俺には岩崎美由紀というずっと前から好きな人がいて。もう明日にでも告白しようというところまで気持ちはできあがっていたのだ。
なのに、何で俺は月本の生腕をさすってなきゃいけないんだ。いいのか? 好きな人がいて、告白しようとしている時に他の女の肌をさすっていて。
そういう思いがあったのも事実だ。
だから走った。走って逃げた。教室まで。
ガラガラとドアを開けて、飯を食っていないことにも構わず自分の席について顔を伏せる。
くおおおお。
悶絶である。俺はもう青春の悶絶に人知れず苦渋の表情を作っていた。
ああ、俺の好きな人は岩崎美由紀だよ。もう明日にでも告白しようと思っているんだ。
だけど──。
くおおお。
しばらくして──月本がドアを開けて教室に戻ってきた。
俺は顔を上げてその姿を見つめた。なぜだか目が離せなかったのだ。
昨日突如として現れた女の子が、圏外から一気に一位を脅かす位置にまで昇ってきていることは、もう間違いのない事実らしかった。
と同時に、どうもからかわれているなんてもんじゃないと思った。
彼女の言葉は、まるっと丸々本当のことなのだ。
さっき彼女の生腕をさすり回したように、それでも彼女が何も文句を言わなかったように──俺は彼女の身体を自由にすることができるのだ。
きっと何をしても文句を言われることはない。だって、彼女自身がそう言っていたのだから。
そのことが深々と理解できてしまった。
もう一度顔を伏せる。チャイムが鳴って、教師が姿を見せ、学級委員が起立の号令をかける。
が、俺はずっと机に突っ伏したままで、
ああ、もうどうするべ……これ。
と悶絶しているしかなかったのである。
[ 2012/01/10 18:09 ]
都合のいい性奴隷 |
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