「あら、美由紀ちゃん、おかえりなさい」
「あっ、こんにちはー。えへっ、ただいまですー」
大学から帰って、家の門扉を開けたところで、自転車に乗って走っていく近所のオバサンに声を掛けられた。私はできるだけ明るい感じになるように笑顔で返事をした。
門扉を閉じて、玄関のドアを開ける。
家の中には、ムッとするような臭気がたちこめていた。同時に、うら若い女の嬌声も聞こえてくる。
(どこでやってんだろ……)
階段の脇にカバンを置いて、リビングへ。
ドアを開けると、お姉ちゃんがテーブルの上に寝かされて、山田さんに犯されていた。
二人とも全裸だった。
「あ、美由紀ちゃん、お帰り」
山田さんが私を振り返って言う。
「ただいま……」
「ああん……ああっ……ああんっ……もっと……もっと突いて……」
私の返事にかぶせるように、お姉ちゃんが懇願した。
山田さんは「よしきた」と言って腰に力を入れて打ち込む。
お姉ちゃんは私が帰って来たことにも気が付いていない様子で、腰を振りながら恍惚の表情で山田さんの瞳に見入っている。
お姉ちゃんのキレイな足が、山田さんのピストンに合わせて揺れる。
二人は夢中になって性器をこすり合わせている。
私は仕方なく、キッチンで手を軽く洗って、冷蔵庫からお茶を取り出して飲んだ。
「あああん、あっ、そこいい……そこ、いっぱい突いてぇ……」
「ココかい? ココがいいかい?」
「あくっ、いいの……そこ、すごくいいっ……」
(……)
私は飲み終わったコップを軽くすすいで、どうしようかと思う。
山田さんなら自分の部屋にいてても大丈夫かな……。
その時、リビングのドアが開いて、田中さんが現れた。
「あ、美由紀ちゃん、こんにちは。おおっ、山田さん、がんばってるね」
私は軽く会釈。
山田さんは、お姉ちゃんを激しく責めたてながら、
「おおっ、時間どうだい、ないなら急ぐけど──」
笑顔で聞く。
「いやぁ、今日はもう仕事終わったからね。後は日付が変わるまでOKさ」
「あーそうかい、それじゃもうちょっと楽しませてもらうよ」
「OKOK。俺は終わるまでテレビでも見させてもらってるから、ゆっくりやってくれ」
田中さんはソファにどっかりと腰をおろして、テレビのリモコンを操作。
私は、そんな田中さんに、おぼんを使ってお茶を運ぶ。
「どうぞ……」
ことり、と田中さんの前にお茶を置く。
「ああ、ありがとう。美由紀ちゃんはいつも気が利くね~」
「いえ……」
こんな状態でそんな誉められ方をしても、あまり嬉しくない。
「今日は夜までいてくださるんですか?」
よほど喉が渇いていたのか、さっそく半分ほどお茶を飲んだ田中さんに聞く。
「うん、そうだね。まぁ、二発ってとこかな」
「そうですか。ありがとうございます……」
じゃあ、夜までは大丈夫かな。後は、何かあった時のために、一人泊まっていってくれる人がいればいいんだけど……。まあ、夜までにはまた何人か来てくれるかもしれない。
協力してくれる人たちが、みんなそれぞれ知り合いを連れて来てくれるおかげで、最近では人がいなくて困るということはほとんどなくなった。最初の頃の苦労が嘘みたいだ。私も楽をさせてもらっている。感謝しなければ。
でも、それもこれも、元を正せばお姉ちゃんが美人なおかげなんだけど。
お姉ちゃんぐらいの顔とスタイルの女なら、この世にセックスしたがらない男なんていないんじゃないかと思うぐらいだし。
お姉ちゃんの写真を見せれば、事情を話しただけで即、協力を取り付けられる感じなんじゃないかと思う。
「んああっ、いくっ、いくっ、いくっ、いくっ、あんっ、あんっ。あんっ──」
「どこにかけて欲しい? ナカがいい? クチがいい? おっぱいがいい?」
「あんっ、ナカっ、ナカにっ、ちょうだいっ、いっぱいっ、あんっ、出してえ──」
大きな声。私はついつい振り返ってしまう。別に、男の人がイクところも、お姉ちゃんがイクところも見たい訳じゃないのに。
テーブルの上で、お姉ちゃんが背中をそらしてプルプルと小刻みに震えていた。
山田さんが腰をえぐりこませながら、どくどくとお姉ちゃんの中に──射精している。
田中さんはテレビを見ると言っておきながら、さっきからずっとお姉ちゃんを見ていた。ズボンの前の部分が、パンパンに膨らんでいる。
あんなことを言いながら、早くお姉ちゃんを抱きたくてたまらないんだろう。もしかすると、妹である私がいるせいで、無理をして取り繕っているのかもしれない。
……でも、それでいいと思う。あんな状態のお姉ちゃんと、興奮した男の人を二人きりにさせたら、男の人がどれほど“獣”になってしまうか分からない。多少のストッパーは必要なのだ──。
リビングの時計が、ごーんごーんと午後五時ジャストを知らせてくれる。
もうすぐお母さんが帰ってくる。
「あ、田中さん、お姉ちゃんをちょっと、テーブル、ご飯の用意とかしたいんで……どこか、田中さんの好きなところへ運んでもらえますか」
「ああ、分かった。じゃあ、彼女の部屋でいいかな」
「はい、お願いします」
──あの日から、お姉ちゃんは極度のセックス依存症になってしまった。
私たち家族は、お姉ちゃんのために、信頼できる男性をボランティアとして募集した。最初は近い知人から。慎重に事情を話して──、だけど、それももう必要ない。信頼できる人たちが、さらに信頼できる人たちを連れて来てくれるおかげで、協力してくれる男性の数は三百を越えたのだから。
毎日毎日、お姉ちゃんの「不足」を埋めるために、彼らは家にやってきて、お姉ちゃんを……犯してくれる。おかげでお姉ちゃんの情緒は安定していて、昔のように発狂して暴れまわるようなこともすっかりなくなった。
だから、最近はこんな風景こそが、我が家の日常になってしまっているのだった。
すべての原因は、あの日──。
母子家庭の家にはその時、十九の姉と十四の妹がいた。
強盗は、中に人がいることも気にせずに玄関から堂々と入ってきた。
家の中を荒らして、金目のものがないとみるや、「うまそうだ」と言って、姉をさらって帰ってしまった。
姉は三ヶ月後にホームレスに輪姦されているところを保護されて、家に帰ってきた。
その時からすでに姉は、男がいないと生きていけない体になっていたのだ。
原因は、その「家に来た男」に、三ヶ月ものあいだ、しこたま男の味を教え込まれたからだという。
なんとか逃げ出したはいいが、途中で禁断症状が出てしまい、自分からホームレスの溜まり場に「犯してください」とお願いをしに行ったのだという。
私は、その男がどうしても許せない。
お姉ちゃんをこんな風にしたその男が許せない。
その男は、いまだに捕まっていないのだ。
最初はそのことが腹立たしくて仕方なかった。でも今は違う。今は、捕まっていないこの状態をありがたいとさえ思う。
なぜなら──捕まって刑務所にでも入られた日には、私の手で殺すことができなくなるから……。
私は、五年の歳月をかけて、ようやくその男の居場所を突き止めることに成功したのだ。
姉二十四、妹十九。奇しくも、今の私は、あの事件があった日の姉と同じ年齢になっていた──。
[ 2012/01/04 18:20 ]
姉のカタキは女殺し |
TB(-) |
CM(-)