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姉のカタキは女殺し 1-3

 男は一度部屋を出て行き、そしてまたすぐに戻ってきた。今度は大きなハサミと、そしてもう片方の手には注射器を持って──。


(──くそっ!)


 私はTシャツにジーンズという格好で、壁に大の字に拘束されている。

 夏も盛りで、この部屋には窓も冷房もないのだ。もちろん全身汗まみれである。Tシャツもジーンズも、べったりと素肌に張り付いてしまっている。

 男はそんな私に近づいてきて、おもむろにTシャツの胸元を掴んだ。そしてハサミを差し込んで、薄い布を切っていく。


 ジョキジョキジョキ──。


 胸元からすそまでを一直線に切り裂いて、続いて腕の部分も。


 ジョキジョキジョキ──。


 男が強く布を引くと、一瞬で私の上半身は薄いピンク色のブラジャーだけとなった。

 Tシャツに隠されていた女の身体があらわになる。肌が空気に触れる感触が、今だけは不快に思えた。

 男は引き続き、ジーンズも切りはじめた。分厚い生地を、腰の部分から少しずつ少しずつ裁断していく。

 やがてそれも終わり、靴下も脱がされた私は、結局下着姿で拘束されるという状態にまで追いやられた。


(──くっ──)


 状況は悪化の一途をたどっている。反撃どころか、脱出の芽さえも見つけられない。

 もしかして、このままずっと──。……いや、それはない。いつか必ず、拘束は解かれるはずだ。

 コイツを殺すチャンスだって絶対に訪れるはずなんだ。

 私は自分に言い聞かせる。

 だから──。

 だから、それまでは何があっても絶対に諦めちゃダメだ!

 たとえどんなにひどいことをされたとしても。いつか必ず訪れる、復讐のチャンス。それをモノにするまでは、何をされても心だけは強く持って──。決して屈服せずに──、頭を冷静に保って──。

 ここに来る前に、すでに死ぬ覚悟は済ませてきたのだ。

 お姉ちゃんのカタキを取るためなら、どんな苦境だって乗り越えてみせる。命さえ惜しくはないのだ。他に何の恐怖があろうか。そう、私はもう覚悟を決めている。何をされても平気だ。ただ復讐を果たす。そのことさえ忘れずにいれば、必ず──。必ず──。

 そんな私の内心も知らず――男はたまらないといった様子で、私のふとももにむしゃぶりついてきた。汗ばんだ肌を味わうようにちゅーちゅーと吸い付く。

 わき腹からわきの下までを、一直線に舐め上げられた。まるで汗をすくい取るかのような舌の動き。実際に男は、私の汗を飲んでいた。しかもおいしそうな表情で……。

 コイツは本当に変態で、最低の異常性欲者なのだと、改めて認識する。


「はあ……はあ……ああ、たまらんなぁ。美由紀……。ええ? 十代のコの肌はやっぱり違うなあ……。全然違うわ……。ほら、もう、ピチピチやないか。ほら、このふとももとか、なんやこれ。見事なもんや……パンパンに張って……それでいて柔らこうて……はぁ……ちゅぱっ……じゅるっ……」


「……あ……くっ……」


 舌がなめくじのように身体中を這い回る。全身をくまなく舐められすぎて、自分の身体からムンムンと男くさい唾液の匂いが立ちのぼってくる。


「ああ、かわいらしい、かわいらしい足してるなぁ。ワシもうたまらんわ……。足の指しゃぶらせてや……ちゅる……ああ、うまい……」


「わきの下の匂いがたまらんわ……どや、今日は外も熱かったやろ。ここも熱いけどな……ほら、いっぱい汗かいてからに……かわいらしい……ちゅるっ……じゅるるるる」


「ああもうたまらん、美由紀、最高や。おまえの身体最高や。最高の身体や……もうこんな身体なら一日中でも舐め回したるぞ……いや、三日三晩でもええなぁ……ああ……ちゅく……ちゅぱっ……」


 男が股間を腫らしながら、なおも私の肉体を舌と唇で味わっている。何か人間をやめて食べものにでもなったかのような感覚に陥ってしまう。かなり気色の悪い刺激が肌を刺すが、それでも感じるわけにはいかない。

 コイツは世界で一番憎むべき敵なのだ。殺すべき目標なのだ。どんなにいやらしいことをされたとしても、絶対に感じたりはしてやらない。


「ほら……美由紀も気持ちええやろ……ワシの舌で舐められて、興奮するやろ……どや?」


 男が顔を近づけて聞いてくる。

 もちろん、答えは決まっている。


「ははっ、まさか。興奮? ありえないわ。最初から最後まで、ただ気色悪いだけよ。できればさっさとやめてもらいたいわ。無駄だから」


「ほう、そうか。やっぱりか。やっぱりアカンか……。まぁ、そらそうかもな。ただ舐めてるだけやしな。でも、これを使ったらどないやろな……」


 そう言うと、男はわきに置いてあった注射器を手にした。

 中には得体の知れない濁った液体が入っている。

 男がプランジャーに力を入れると、針の先からぴゅぴゅと液体が飛んだ。


 ──いやっ! やめてっ! ヘンなもの打たないでっ!


 本当ならそう叫びたい場面だ。が、この男の前でだけは、そんな風に懇願することはできない。形の上だけでも敗北するようなことがあってはならないのだ。

 だから私は歯を食いしばって恐怖に耐えた。

 できるだけ針の先を見ないように顔を背ける。けれど身体はどうしても小刻みに震えてしまう。


「……な、なんなのよ、それっ」


 不安のあまり質問が口をついた。強気を装ったが、もしかしたら本心を悟られたかもしれない。


「ん、なんや。お姉ちゃんのこと知ってるんやったらだいたいの想像はつくやろう。まぁ簡単に言うとやな、媚薬と麻薬の中間みたいな薬やな」


 男は針の先を私の右腕に添わせる。


「これ打つとな、女は誰でも自分をさらけ出せるようになるんや……。いやらしい自分をな……。頭は興奮するわ、身体は敏感になるわで、これを打った女とヤッたら、もう普通の女とはヤレんようになるわな。なんせこれをキメた女は際限なくイキ狂いよるからなあ。可愛らしいイキ顔を見んのが好きで好きで好きなワシには必需品や……」


「……くっ……やめろ……」


 針の先が肌を押す。

 ちくりとした痛みのあと、針先はスムーズに腕の中に消えた。


「ああ、心配せんでええで。副作用とかそんなんはあらへん。無害なもんや。問題は……そやな、まあ強いて言うなら、これを一回打ってしもたら、もう一生効果が消えんいうことぐらいやな。一生セックス中毒っちゅうか、ザーメン中毒みたいな感じになってまうけど……ま、それは本人も普通では味わえんぐらい気持ちエエんやから問題ないと言えば問題ないわな……」


 少しずつ液体が体内に注入されていく。


「……はっ。一体どんなテクニックを使ってお姉ちゃんをあんな状態にしたのかと思えば……。なんてことはない、ただの薬だったなんてね。ははっ、笑える。こんな薬に頼らなきゃ女の一人も満足させられないなんて。情けないにもほどがあるわ。結局アンタは何のとりえもないただの変態オヤジだったってことね、がっかりだわ」


 男が真剣な顔をして、プランジャーを最後まで押し込む。


「よし、と。……まぁ、そないがっかりせんとってや。やってみればわかるわいな。これ打ってもそんな口が利けたらたいしたもんやけどな……まぁ、どうやろな……」


 針の刺さった場所を軽くもみこんで、男は注射器を捨てた。

 私はぎゅっと目を閉じて身体の変化に備えた。どんな症状が襲ってくるのか、想像もつかない。


「ああ、薬が完全に馴染むまで一時間ぐらいはかかるもんやからな。ほな、ワシはそれぐらいにまた来ることにするわ。ぐふふ……ああ、楽しみやなぁ……美由紀ぃ……おまえみたいな気の強い女が自分の性欲に負ける姿はワシの大好物やからなあ。まあ、精一杯ワシを楽しませてくれや……」





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[ 2012/01/06 00:39 ] 姉のカタキは女殺し | TB(-) | CM(-)
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