大学一年のとき──田舎から出てきて右も左も分からなかった私に、彼がいろいろと世話を焼いてくれた。私たちは自然に付き合いはじめ、四年間の大学生活を満喫した。そして、彼の就職が決まり大学を卒業するころには籍も入れた。
──もうあれから五年になる。
現在も彼の仕事は順調で、私たち夫婦には何の問題もなかった。
ただ一点、どうがんばっても子供ができないということを除けば……。
そうなのだ。
西村晃と西村智美。
ともに二十七歳になる私たち夫婦は、不妊に悩まされていたのだ。
そんな時のことだ。たまたま近所に不妊治療に力を入れている病院があるということを小耳に挟んだ。
その病院は小さいけれど、調べてみると不妊治療においては日本でもかなり有名なところらしい。なにやらその道で数々の治療実績を持つ優秀なお医者さんがいるとのこと。
私は夫に相談して、そのお医者さんに診てもらうことにした。
──初めて会ったその先生は、白衣を着ていなければ警察に職務質問でもされそうな、ちょっと見た目がアレな中年オヤジだった。
が、私も夫も本当に子供が欲しくて欲しくて……。その先生を信頼して、すべてを彼に任せてみよう──治療に向けてがんばっていこうという決意を固めたのだ。
後に彼は、医師免許はもちろん、カウンセリングの資格さえ持っていない、ただの変態詐欺師だということが判明するのだが……。
けれど、このときの私たちは、まさかそんなこと知る由もない。彼を本物の、それも特別な技術を持った不妊治療のスペシャリストだと信じ切っていたのだ。
これは、私の人生の汚点、その一部始終である。
初めての本格的な診察を前に、私はガチガチに緊張していた。
病院の待合室で待っているだけだというのに、腋の下が汗でびっしょりになっている。
「では次の方ー、西村さん、西村智美さん、どうぞー」
名前を呼ばれて、診察室へ入る。
後ろ手にドアを閉めて顔を上げると、あの先生の姿が見えた。
四十代か五十代か──それほど背は高くないものの、肉付きがいいので存在感がある。
短く刈った髪に、日焼けして赤黒くなった肌。白衣を着て机に座っているのでお医者さまだと分かるが、そうでなければ普段は肉体労働でもしているのかと思ってしまうような中年男性。
「奥さん、こんにちは」
「あ、はい、こんにちは……。よ、よろしくお願いします……」
真壁一朗先生。
先日コンタクトを済ませたこの人こそ──日本でも指折りの、不妊治療のスペシャリストなのである。
私は彼に勧められるがままに椅子に座った。
先生はカルテをめくりながら、視線も合わせずに口を動かす。
「ええと、あらかたのところはこの前お聞きしましたので──そうですね、今日はとりあえず実際に奥さんの身体を把握するところから始めさせてもらいましょうか。では触診しますので、下は全部脱いでください」
もう幾度も口にしたセリフなのだろう。彼は何でもないという風に、さらっと言ってのける。
「……は、はい……」
けれど一主婦でしかない私にとって、それは大変なことだった。
心臓を高鳴らせつつなんとか返事をするのがやっと。
男の人の前でパンツまで脱いで下半身をさらけ出すというのは……。
いくら病院の中で相手が先生だといえども、相当に抵抗があった。
恥ずかしくて不安で、手が震えてしまう。
スカートに手をかけたまま脱ぎにくそうにしている私に気付いたのだろう、先生がこちらに向き直った。回転椅子がキィと嫌な音を立てる。
「大丈夫ですよ。女性の裸を見ることには慣れていますから。診察には必要なことですからね。それとも何ですか、私がそんなに変な男に見えますか?」
「あ、いえ……そんなことは……」
そうなのだ。相手はお医者さま。恥ずかしがるということは、それ自体がとても失礼なこと……。
私は思い切ってスカートを脱ぎ、パンツも下ろして足首を抜く。
まだ温かい下着を指示された通りカゴに入れると──立ち上がった先生に肩を掴まれてそのままベッドに寝かされた。
仰向けで、腰から下はつま先まで素肌をさらした状態。
「それでは失礼します。触診は初めてですか? 大丈夫です。リラックスしていただければ」
下の茂みまで露出して横たわる私のすぐそばに立ち、先生はクスリのようなものを指にとって──それをそのままアソコに近づけてきた。
私はぎゅっと上着のすそを掴んで身を固める。
太ももに触られ、少し足を開かされたかと思うと──、
ニチョ……。
先生の硬くて太い指が私の陰唇に触れてきた。
彼の手は躊躇なく動き、ムニュムニュと局部全体にクスリを塗り込んでいく。
大陰唇小陰唇の表裏、そしてクリトリスにも……粘つく液体を馴染ませられる。
「……ん……、ぁ……」
変な気分にならないよう、沸き立つ心と身体を必死になって抑え込む。
ただでさえ敏感な方なのに、こんな昼間から下半身丸出しで……夫以外の男性にアソコを触られているのだ。
「……ぅく……、ッ……」
どうしても今まで経験したことのないような強い羞恥と、それにともなってものすごく妙な感覚が……ア、アソコに……。
「……ん……、くッ……あッ……」
心では普通にしていなければならないと思っているのに、わずかだが、でも確実に──喘いでしまっていた。
表情、呼吸、身体の震え、そしてアソコの肉だってひくひくと動いてしまっているのだ。先生だってもう気が付いているかもしれない。──この女は触診で感じているのだと。
顔から火が出るほど恥ずかしかった。同時に、夫に対してものすごく悪い気がしてしまう。
(ああ、アナタ、ごめんなさい……。私……アナタ以外の人に……ア、アソコを、触られています……)
ニチャ、ニチャ、ヌチャ……。
先生の指が穴の中にまで侵入してきた。
ヌプリと一本、そして二本。
おそらくは人差し指と中指だろう、二本の長い指が中でミミズのように蠢いて、膣壁にクスリを塗り広げている。
「……んふ……ンン……」
(ああ、どうして私は生足にサンダルなんて格好で来てしまったんだろう……。これじゃあスカートとパンツを脱いでしまった今、下半身は完全に裸じゃない……。せめて靴下だけでも履いていれば……ここまでいやらしい感じにはならなかったかもしれないのに……)
先生の指が、女性器の中でうねりを見せる。
「……んくッ……、んはッ……」
指の腹を使って肉ヒダを撫で回す。グイッとGスポットを押し込んでくる。
「……あ……あくぅ、ああ……」
私はもう声を我慢するので精一杯だった。
緊張して普段より何倍も敏感になったアソコからは、絶え間なく快感が湧き出してくる。
ベッドの上に投げ出された両足がうねうねと動いて、ものすごくいやらしいことになってしまっていた。
でも、抑えることができない……。
「んはっ……、ンふッ……ふうぅッ……」
男らしく長い指が予想以上に奥深くまで入り込んできて──最終的には子宮口まで撫で回されてしまっていた。
愛液はジュンジュンと分泌され続け、診察ベッドのシーツを汚している。
妊娠をしないだけで、後は正常──決して不感症などではないのだ。
こんなにも執拗に触診され、性器の中をかき回されてしまうと……たまったものではなかった。
もしもこれが夫とのセックスだとしたら、今ごろは完全に「お願いだからもう入れて」と懇願しているレベルのことだった。
精神的な興奮も、肉体的な快楽も、相当に高まってしまっている。
「……あっ、あのっ、せ、先生っ、こ、こんな触診は……ん、あ、必要なんですか……?」
このままでは大変な醜態をさらしてしまうことになる。私は先生に申し出た。
が、彼は真面目な顔をして答える。
「何を言ってるんですか。これからあなたの不妊を治そうとしているのに、膣の中を知らないことには話にならないでしょう」
「……でっ、ですけど……こんな……」
「いいですか奥さん。私はあなたの担当医なんですよ。私を信じて身を任せてください。とにかく、まず知ることが一番。今日は徹底的にあなたの穴の中を知り尽くさせてもらいまいすからね」
「そ、そんなっ……ン、くはッ……。ンやッ……あんぁ……」
先生の指使いがさらに激しさを増した。
一秒ごとに力強く壁をこすり、強烈に穴の中を攪拌してくる。
それはもはや、触診という範囲を明らかに逸脱していた。
どこからどうみても、指マンじゃないの? これ……。
ぐちゅぐちゅ! ぐちゅぐちゅ!
「ンあッ……くはぁ……! ンンンッ……あ、あはッ……! あんッ……あンッ……!」
ついに我慢も限界に達し、喉の奥から声が漏れる。
愛液はだらだらと垂れ流しの状態。両足は太ももの付け根からつま先までを悩ましくくねらせている。腰全体も上下に動く。
ぐちゅぐちゅぐちゅ! ぐちゅぐちゅぐちゅ!
(……ンああッ……、あんッ……だ、だめェッ……こ、こんなのッ……イ、イッちゃう──!)
この際、腰や足はいくら暴れさせてもいい。とにかくイクことだけは避けようと、私は必死になって快楽に抗った。
両腕で上半身を抱きかかえて、全身から汗を噴き出して──絶頂へ向かって急上昇していく肉体を押さえつける。
表情もすごいことになっているはずだった。目を強く瞑り、眉間には皺を寄せて……口だって大きく開いて……。
そんな私の姿を見てか、先生が言葉を投げかけてきた。
「声、我慢しなくてもいいですよ。我慢は身体に毒ですからね。奥さんの治療に一番重要なのは、女性ホルモンをたくさん分泌することなんですから。いっぱい声を出して、存分に感じてもらって構いません。素直に、正直に、あるがままにね。それこそが奥さんの症状を改善させる第一歩になるんですから」
「ンはッ……で、でもっ、そ、そんなっ……んふうッ……」
「構いませんよ。ココを触診しているときにはよくあることですから。中には潮をふいて絶頂を迎える患者さんもいらっしゃいますから。どうぞ安心してください。そりゃあこんなところに指を入れられたら、女性なら誰だって感じてしまいますよね。ええ、分かります。大丈夫です。問題ありません。ね、あなただけじゃありませんから。それが自然なことですから」
「……ん……はッ……んあぁッ……あ、あ、あああッ……!」
私は上半身をのけぞらせて喘いだ。背中がベッドから浮いて、下腹部が前に突き出される。
声を出すと、辛さはうんと和らいだ気がした。その代わり、快感はより一層強く激しく身体の中を駆け巡る。
「いいですよ、素晴らしいです。思う存分声を出して、心も身体もリラックスさせて──すべてを受け入れてください。足や腰も好きなように動かしてもらって構いませんからね。気持ちよくなれば、女性ホルモンも活発に分泌されます。そうです。私の指にアソコをこすり付けてもらってもいいです。そう。素直に、感じるがままに──」
「……んあぁッ……は、は……んふンッ……! ン、ンはああぁッ……!」
じゅくじゅくじゅく! じゅくじゅくじゅく!
AV男優も顔負けという、すさまじい指使い。
私は足の指を忙しく曲げ伸ばし、両太ももをカエルのように広げた状態ではしたなく身悶えた。
次々と襲いくる快楽に、腰がぐりぐりと円を描く。
ベッドから軽く背中を浮かせて──まるで正常位で相手の腰に秘部をこすり付けているかのようなあられもない姿。
「そんなに気持ちがいいんですか」
「……あッ、すっ、すみませんッ……でもっ……! あンッ……!」
「いえいえ、いいんですよ。どうぞ思うがままに感じてください。女性ホルモンがたくさん分泌されますからね。……あと、私は医者なんですから、医者にウソはつかないでくださいね。痛いときは痛いと、気持ちいいときは気持ちいいと、正直に言ってもらわないと困ります。治療にも影響するでしょう?」
「……あンッ……はンッ……あ、は、は……いッ……! ンくぅッ……!」
「で、これはどうですか。気持ちいいですか」
ぐじゅぐじゅぐじゅ! ぐじゅぐじゅぐじゅぐじゅ!
先生は激しい指使いで蜜壷と化した私の中をかき混ぜてくる。
ゴツゴツとした指が柔らかな粘膜を引っ掻き回す。
気持ちのいい部分が激しく刺激されて、ビチビチと愛液が飛び散る。
私はお尻の穴までヒクヒクと痙攣させながら、シーツを強く握りしめて下半身を暴れさせた。
「……あ、あはッ、いッ……! んあッ……! んふあッ……! あああッ……! あ、い、き、気持ちッ! 気持ちいいですッ──んふぅッ……!」
「そうですか。それはよかったです。では質問を変えましょう。どのぐらい気持ちいいですか? 今後の治療にも関わってきます。正直にお答えください」
「……え、あ、あンッ……! あ、す、すごくッ……! あンッ、す、すごくッ──き、気持ち、いい、ですッ……! んはッ……! んはあぁッ……!」
「普段から旦那さんにこういうことはされていますか?」
「──んふぇッ──?」
予期せぬ質問だった。私は驚いて、目を見開いて動きを止めてしまった。
先生も激しく動かしていた指を休め、こちらの顔を覗き込んでくる。
「ああ、いや、セクハラだなんて思わないでくださいよ。奥さんの性生活を把握しておくことも、治療に当たっては必要なことなんですから。もしかしたら、普段のセックスが不妊の原因になっている可能性だって捨てきれない訳ですからね」
「……え、あ、はい……」
「──で、どうですか。旦那さんにこういうことはされていますか?」
こういうことっていうのは、やっぱりこの、指で……ってことで……。
「……あの……は、はい……。す、少しだけ……。こんなに激しくは……されませんけど……」
「なるほど。これだけ激しく指マンされるのは初めてですか」
──ゆ、指マン……って……。
恥ずかしさのあまり、消え入りそうな声でしか答えられなかった。
「は、はい……」
「どうですか、気持ちいいでしょう。指マン。女性の中にはペニスをハメられるよりも指マンでアソコをかき回される方が気持ちいいという方だっていらっしゃいますからね」
私は信じられない気持ちで先生の顔を見上げるしかなかった。
指マン指マンと、あけすけな言葉を使ってくる。あまりに普通に口にするものだから、他意はなさそうだと思えてしまうけれど……。
はっきり言って、こういう会話には抵抗しか感じなかった。
でも……先生には正直に答えなくてはいけないのだ。
何といっても、この人は不妊治療のスペシャリストであって──私が妊娠できるかどうかも、すべて彼の手にかかっているのだから……。
私は顔が真っ赤になっているのを自覚しながら返答する。
「……はい……き、気持ち……いいです……」
「旦那さんの普段の指マンと私の指マンとでは──どっちが気持ちいいですか」
「……あ、あの……それは……答えないといけないんですか……?」
「ええ、もちろんですよ。妊娠するしないにも、感度は重要になってきますからね。私は担当医として、奥さんの現状をしっかりと把握しておかなければなりません。あなたは私が責任をもって受け持つ患者さんなのですから」
私は下半身裸の状態で股を開き、アソコに先生の指を受け入れ、さらには愛液をお尻の穴にまで垂らしながら──ただひたすらに戸惑っていた。
もう恥ずかしさもピークに達しているというのに、さらにこんな質問をされるだなんて……。
正直に言うと、答えはすでに決まっていた。
けれど、心の中は夫に対する後ろめたさで一杯になっていて──私はそれを口に出すことができずにいたのだ。
そんな私の内心に気が付いたのだろう、先生はやさしく膣壁を撫でながら言う。
「私は今までにもたくさん不妊に悩む女性たちを診てきました。そんな私の技術を信頼したからこそ、あなたはこの病院を選んでくれたのではなかったのですか? もしも奥さんが私の指示に従えないというのなら……次からは別の病院に行ってくれて構いませんが」
「……あ、そ、それは……」
そうなのだ。今までいくつもの病院を回ったのに、私の不妊は一向に改善する気配がなかった。
真壁先生が、不妊治療のスペシャリストと呼ばれる彼こそが、最後の希望なのだ。
夫にも精一杯がんばると宣言してここに来ているのに……。愛する彼との間に子供が欲しいからここに来ているのに……。
そんな私が、こんなことぐらいで恥ずかしがっていてどうする。
妊娠するために必要だというのなら、何だってするぐらいの気持ちがあったからこそ……あれだけたくさん病院を回ったのではなかったか。
私は心を強く持って、震える喉を制御した。
「……あ、あの……きょ、今日が……一番……気持ちいいです……」
「そうですか。つまり、私と旦那さんの指マンを比べると、私の方が気持ちいいと?」
「……」
本当にいろいろな意味で心が痛む。
「ほら、正直におっしゃってください。奥さんは私と一緒に不妊を治したいんですよね?」
「……あッ……ン、は、はい……。せ、先生の方が……き、気持ちいいです……」
「いいですよ、素晴らしいじゃないですか。その調子です。奥さんはいい患者さんですね。あなたがこれだけ協力的なら、きっと全てはうまくいくでしょう。すぐに妊娠できるようになりますよ。ふふふ、ええ、大丈夫です。私が必ず妊娠させてあげますから……」
先生はそれだけ言うと、再び私の中を太い指でかき回し始めた。グチョグチョにトロけた膣の中を、ニヤついた表情で刺激してくる。
(……ああ……アナタ……ご、ごめんなさい……んあッ……)
愛する人に心の中で詫びながら、私はまたしても両足をくねらせた。