電撃のようなアイデアを閃いたのは、その日の用事がすべて終わって校門を出ようとしていた時のことだった。
柏木はいま、妖怪カラダ洗いの存在を信じ切っている──。
「はっ!」
考える。
もしも、もしもだ。いま俺がマスクでも被って、彼女の風呂場に侵入したらどうなるだろう。
妖怪カラダ洗いとして、彼女の全裸を洗いまくってやることができるのではなかろうか……。
「……」
柏木の可愛らしい顔に、小学五年の瑞々しいカラダ。頭の先から足の先まで生まれたままの姿で、肌は湯気にしっとりと湿っている。そして、胸には外人でさえも裸足で逃げ出すような超絶美巨乳があって……。
「おうお……」
よからぬ光景を想像した瞬間、ズボンの中でイチモツが勃起し始めた。ビクンビクンと脈を打ち、心臓の鼓動までをも早めていく。
「いや、でも……マジで……いまなら、できるんじゃないか?」
俺は腰をかがめながら、独り呟いた。
夕方の通学路。ライトを点けた車が俺の横を通り過ぎていく。
が、次の瞬間には、
「どうやって柏木家の風呂場に侵入するんだよ」
とか、
「風呂場に入れても、中にいるのが親だったりしたらその瞬間教師クビだぞ」
とか、当たり前の障害が頭の中に姿を現すのだった。
「くそ、やっぱ無理か……」
が、さらに次の瞬間には、
「家庭訪問で細工を施せば、何とかなってしまうのではないか……」
という思いまでもが姿を見せ始めたのである。
「くおお……」
不可能と可能、理性と欲望、平穏と危険、諦めと執念──そんなものたちの間で、俺は心引き裂かれようとしていた。
道路にうずくまって、葛藤に揺れる。
しかし、柏木の担任でいられる奇跡を噛みしめていた今日のことだ。こんなチャンスはもう二度とないのではないかと考えると……天秤はゆっくり一方へと傾いていってしまうのだった。
適当な理由をつけて、柏木家への特別家庭訪問を実施。
お母さんとの話は適当に切り上げて、彼女の部屋に盗聴器を仕掛ける。
トイレを借りるついでに風呂場を視察。
大の大人でも入れるぐらいのデカい窓がついていることに小さくガッツポーズをして、外からでも鍵が外せるように細工を施す。
「……はい、はい、はい、お邪魔しました。ええ、大丈夫です。はい、では失礼します」
家の外に出た俺は、建物の裏側に回って風呂場の窓を確認。
「頼む……開いてくれ……」
細工をしただけで、中からは施錠してある状態。いまこの窓の鍵を開けることができたのなら、俺はいつでも好きな時に柏木家に侵入できることになるのだ。
手に力を入れると、ゆっくりと銀色の丸鍵が向こう側へと倒れていく。
そして──、
カラカラカラ……。
大きな曇りガラスが開いて、柏木家の風呂場が姿を現した。
中からはひんやりした空気と、わずかに水の匂いまで漂ってきている。
「おおう……」
俺は興奮しながら、すぐに窓を閉めてもう一度手を動かす。今度は逆に、銀色の丸鍵をこちら側へと倒していく。
そして──、
鍵を掛けることに成功。
手で確認してみても、もう風呂場の窓は開かなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
夏の午後。建物の陰になっていてもなお蒸し暑いその場所で……俺は身体に張り付いたシャツをつまんで、完璧な仕事に何度もガッツポーズを繰り返していた。
家に帰って盗聴器が正常に作動しているか確認する。受信機のスイッチを入れると、軽いノイズに混じって柏木家の生活音が聞こえてきた。
わざわざ半日掛けて秋葉原まで行き、最高に怪しい店で手に入れた盗聴器なのだ。盗聴器バ○ターズでも来ない限りは、絶対に見つからない自信があった。コンセントから電源を供給されているので、半永久的に使えたりもする。
これから柏木があの家にいる間ずっと、彼女の立てる音を聞いて過ごすことができるのだ……。
「おおう……」
ものすごい背徳感に、身震いがした。
教師は失格である。が、それを補って余りある体験が自分を待っているのだ……。
そう思うと、後悔よりも期待の方がずっと大きいと感じる俺なのだった。
[ 2011/12/31 09:56 ]
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