隣人、六車が部屋の中に入ってきた。
今、彼はリビングのソファでテレビを見ている。
私はスカートから伸びる白い足を震えさせながら、彼の横、三メートルほどの位置に立ち尽くしていた。
(ああ、どうしたらいいの……)
外に出て助けを求める訳にもいかないのだ。警察を呼んでも、その警察の人が男性だったなら、結局は同じようなことになってしまう。
夫を裏切らないためには、会社にいる彼に連絡するしか方法がない。
電話でもメールでも何でもよかった。とにかく夫に助けを求めたい。
が、さすがにこの男……家に侵入してくるほどの狡猾さなのだ。そんなことはさせてくれないに決まっていた。
「どうしましたか、奥さん。勘違いしないでくださいよ。僕は襲ったりはしませんから。そんなに警戒しないで、こっちへ来て一緒にテレビでも見ましょうよ」
六車はソファの隣を手で叩いて私を呼ぶ。
「嫌です、どうしてあなたとそんなことしなくちゃいけないんですか……」
私はハッキリと断った。強く明確な拒否。
しかし、言葉ではそう言っても……。淫虫が動き出した今、私は彼の隣に座りたくて仕方なくなっている自分を嫌というほど痛感させられていたのだった。
理性は男から離れろと叫んでいる。なのに、実際には数メートルしか離れられないのだ。違う部屋に避難してもいい。少なくとも横を向いて男を見ないようにしていればいいというのに……。
そんなことさえ、どうしてもできそうにないのだ。
この位置から足は動かないし、視界から男の姿を外すこともできない。
高まった女としての本能が、どうしようもなく男という存在を求めてしまっている。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
頭の中は欲望にまみれて、今すぐにでも精液が欲しい状態。
本当に、誰の精液でもいいと思えてしまっているのだ。それこそ、犯罪者のものでも何でも……。今、目の前にいる男のものでだって構わない……。
(ああ、なんてこと……)
男は淫虫症のことについてよく知っている様子だった。AVやネットで、その知識を集めたのだろう。
彼は、私が逃げない、いや、逃げられないことをよく知っている。
おそらくは今の私の思考まで、すべてお見通しであるに違いない。
その余裕の表情は、放っておいても男である自分がここにいる限り問題ない──勝ちを確信している顔だった。
「あはぁ、はぁ、あはぁ……」
さっきから股間の滴りはとどまるところを知らない。生足を伝い、床にまで流れ落ちてしまっている。
男の目的は私の身体のはず。今すぐ襲えば、簡単に犯せるはずなのに……なのに男は、一向に飛び掛ってこようともしない。
そのことを不思議に思っていると、彼がおもむろに口を開いた。
「最初に約束しておきましょう。僕、犯罪者になる気はさらさらありませんから。奥さんを力でねじふせたりはしません。奥さんに許してもらわなければ、絶対に自分からは襲わないと誓います」
「え?」
意外な言葉だった。てっきり、部屋に入られれば、すぐにでも犯されるものだと思っていたのに……。
「ふふ、これでいいでしょう? 安心でしょう? 奥さんが『犯してください』と言わなければ、何もしないのですから」
「……」
「いやね、奥さんが欲しくない訳じゃありませんよ? 奥さんが泣いて頼むのならもちろん、私はいくらでも協力してあげるつもりです。男性器を使ってね、溜まりに溜まった精液をプレゼントしてあげます。淫虫症も大変だと聞きますからね。ボランティアで精液を恵んで上げますよ。ふふふ」
「はぁ、はぁ、はぁ……な、何よ……ば、馬鹿にして」
男は立ち上がって私の手を取った。
そのままソファに引きずり込まれる。
「きゃっ」
夫といつも寄り添ってテレビを見ているソファである。
そこに、身体を密着した形で座らされてしまった。
本来夫がいるべき位置に、六車とかいう得体の知れない隣人がいる。
手を引かれただけで、こうもあっさりと身体を抱き寄せられるなんて……。私は腰に回った彼の手に抵抗できない自分を、驚きをもって受け止めていた。
何だかんだいって、淫虫症になって初めて経験する、夫以外の男性との接触。
想像していた以上に、この病気にかかった女性はノーガードなのだということを理解させられてしまう私だった。
男の手が私の身体をまさぐる。腰の辺り、服の上からだが……とてもいやらしい手の動かし方。まるで痴漢のよう。
私は黙って、されるがままでいた。
股間からは愛液が滴っているのだ。何を言うこともできない。こんな状態では……。
「奥さん、今ものすごくエッチがしたいでしょう」
腰を引き寄せているのとは反対側の手が、胸元に伸びてきた。
私は歯を食いしばって耐える。立ち上がって彼の腕から逃げることは、残念ながら淫虫のせいでできそうにもなかった。
「……し、したくないわ」
六車は、その手をいきなり胸元の開いた部分から、ブラの隙間に差し込んできたのだ。
「あふっ……」
服を着たままで、生乳を触られる……。
「乳首ビンビンになってますけど……したくないんですか?」
「あっ」
彼はブラの中に突っ込んだ手を、さわさわと動かす。
先端の突起が硬くシコっていて、それが彼の手のひらの中で転がる。
Dカップの乳房はムニュリと押し潰されて、甘い快感に溜息が漏れる。
「あ……ふぁっ……ん、し、したくないわ」
首筋を舐められ、耳の窪みを舌でなぞられて、
「身体から、スゴイいい牝の匂いがしますけど……エッチしたくないんですか?」
しつこく尋ねられる。
「んふっ……したくないって言ってるでしょ……んっ」
「お股もビショビショですけど……それでもしたくないんですか?」
「!」
気付けば腰に回っていたはずの手で、スカートから伸びる生足を広げられていた。
百八十度近く広げられた足は、その中央部分から膝に掛けてがすべてベトベトに濡れてしまっている。
太ももの愛液を、さらに手のひらで塗り伸ばされながら、もう一度聞かれる。
「したくてたまんないから、こんなになっちゃってるんじゃないんですか?」
「こ、これは、違っ、べ、別に……エッチなんて……んっ、し、したくないって言って……あふあっ」
自由に身体をいじられ、不覚にも声が漏れる。相手は童貞だと言っていたのに……。そんな男の手で、人妻である私の性感はあっけなく高められていってしまう。
けれど、彼は自分から襲わないと誓ったのだ。
私一人がしっかりと理性を保ち、彼の誘惑を拒否し続けていれば……何も問題はないはず。夫が帰ってくる頃になれば、彼だって諦めて自分の部屋に帰っていくことだろう。
というか、もう望みはそれしかない。
私が夫の愛情を裏切らない道は、その細い道、一本しか残されていないのである。
しかし──。
時刻はまだ朝の九時前。夫が帰ってくるまでに、十時間近くが残されている。
生乳をこねくり回され、濡れた太ももをヌルヌルに揉まれ、そして耳たぶを甘噛みされ、首筋を執拗に舐められ──私は絶望感で泣き出しそうになってしまう。
「あはん……」
しかしそれでも、男の愛撫は止まらない。嬉しそうに私の感じている顔を見つめながら、いつまでもいつまでも女体の味を確かめていく。
[ 2011/11/29 13:29 ]
淫虫症の女 |
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