それからというもの、私は家に帰らない日々を送っていた。
まずタバコ臭さ、酒臭さ、そしてキツい香水の匂いに、痴女のような服装、安っぽいアクセサリー類。さらには全身についたキスマークや、三つどころではなくなってしまったピアスの数。金色に近い茶髪に、小麦色を通り越して黒い肌、太もものタトゥー。
それら全ては、隠すの隠さないのというレベルを越えていたし……どう頑張って言い訳をしてみても、離婚にしか向かわないのが明らかだったからだ。
美咲の家やラブホテル、男の家などを転々として──そして、一年が経過した。
重低音を効かせて地下に鳴り響いている音楽。頭の上を色とりどりの光線が飛び交い、赤青黄、たくさんのライトが激しく明滅している。
不良が集まることで有名なクラブ。まともな人間ならまず立ち入らないその場所で、私は髪を振り乱して踊っていた。
テカテカと光るエナメルのワンピースには、背中やわき腹、お尻の方にも、露出を高めるためだけの穴がいくつも開けられている。
男の味を知ってから一段と豊かになった肢体に、それはピチピチと張り付いて──ハイヒールを履いたままで激しく汗を撒き散らす私は注目の的だった。
「あああーーーーーーッ!!」
足を肩幅に開き、腰を回し全力で奇声を発する。
頭がクラクラするほど楽しく、気持ちがよかった。
まだ今日は来てからそう時間も経っていないのに……私の周りにはすでに、カラダ目当ての男たちが群がっている。どいつもこいつも、素行の悪そうな不良たちばかりである。おそらくは、ほとんどが自分より年下。
彼らも激しく踊っているので、私の鼻腔には若い男たちのフェロモンがムンムンと匂ってきていた。熱気もこもって、まるでサウナのよう。
前から後ろから、たくさんの男の手が伸びてくる。彼らの手は私の湿った肌を撫で、曲に乗って踊る私をさらに高揚させてくれる。
「今日もエロくて最高だね!」
後ろから、大声で話し掛けられる。
身体を斜めにし、発言した若者に妖艶な笑みを返す。
「これが人妻だってんだからたまんねーよ!」
呼応するように、前からもお褒めの言葉をいただく。
私はいま口を開いた彼の、そのタンクトップの上から──たくましい胸板に指を流してあげた。
左の方からまた別の手が伸びてきて、ミニスカートからはみ出している尻肉をなで上げる。右からも手が伸びてきて、それは胸元に着地。こんもりと露出した上乳の汗を指ですくい──目で追えば、彼はその指を自分の口に持っていくのだった。
私は自分を取り囲んでいる彼らと見つめ合いながら、たっぷりと唾液をまぶした舌で唇を舐め回す。濡れた唇、赤い舌に──目の前の全員があっけなく喜ぶ。
「くっそ、ヤリてえええ!」
穴が開きそうなほど身体を見つめられたまま、そんなことを言われてしまう。
正直に言えば、、私だってヤラせてあげたい……。
でも、ダメなの。
「ふふ、それ以上触ると! ケンジとユウイチに殺されるよ!」
大音量の音楽に負けじと私が叫ぶと、彼らはいっせいに手を引き、
「ごめんごめんごめん! 聞かなかったことにして!」
そう言って少し距離を取るのだった。
そう。このクラブに出入りする不良たちの間にも格付けというものが存在して──ケンジとユウイチはその最上位に位置しているのだ。なんでも、オーナーである暴力団関係の人と知り合いで、大きな顔をしていられるとのこと。
それに比べれば、いま私の周りにいる男たちは、みんな下っ端。ここに遊びに来れば、おこぼれの女に預かれると期待しているだけの奴らだった。だから、あの二人の女である私には、もちろん手出しできない。
けれど、私はそんな彼らをも、また可愛いと思ってしまうのだった。
こうやって悩殺コスチュームに着替えて、女の魅力を振り撒いて踊っているのも、彼らを楽しませたい──そう思ってのこと。
そう、私はすっかりクラブ通いにも慣れて、あの二人以外の男の子たちとも、度々遊んでいたのだ。
踊り疲れた私は、休憩しようと壁際に並ぶソファーへと歩いていった。
ずらっと並ぶソファーの一つでは、名前も知らない女が足を担がれている。上には男が覆い被さっていて……隠れて見えないが、パンツをずらされて手マンでもされているのだろうか。
でもまあ、気にしない。そんなこと、ここでは日常茶飯事なのだから。
私は中央の席──ケンジとユウイチ(と、彼らの女たち)専用の席へと向かった。
足を組んでタバコを咥えると、すぐに若い男がライターの火をかざしてくれた。
「ん、ありがと」
彼は、ソファーの脇にあるテーブルにお酒まで持って来てくれていた。見ればまだ十代そこそこ。今日のメンツの中では一番の下っ端かもしれない。
ふと私は、少しからかってみたくなった。
「ねぇ、足疲れたんだけど」
それだけ言って、組んでいた上の足を彼の前に突き出す。
すると彼は慌ててテーブルに飲み物を置き、ソファーに座る私の足元にひざまずくのだった。
「ヒールも脱がせていいから……土踏まずの辺りをよく揉んで頂戴」
素直に返事をする彼。
額に汗を浮かべながら私の足をマッサージし始める。
「ねぇ……私の足に触れて……嬉しい?」
ケンジとユウイチの女なのだ。このクラブではもはや女王様と言っていい地位にある。しかも見た目は華やかで妖艶。彼ら下っ端の男の子たちにしてみれば、手に入れたくても手に入れられない、超エロいお姉さん──そんな感じなのだろう。
だからか……男の子は明らかに緊張している様子だった。
が、確かにその手つきの中には興奮も見て取れるのだ。自分には手の届かない女の足を、マッサージであるとはいえ、好きに触りまくれているのだから。
「ふふ、いいよ、その調子……」
私はサービスだと思い、その場でストッキングを脱いで彼にプレゼント。引き続き、今度は直に生足をマッサージさせてあげることにした。
興奮に息を荒げて、必死になって奉仕を続けてくれる彼。私は意地悪にも、もう片方の足で彼の股間を、ズボンの上から撫でてあげるのだった。
ペニスを勃起させて、身悶えながらも足を揉み続けてくれる彼。
「ふふ、かわいい……」