あれから、一年と半分が過ぎた。
アタシたち夫婦も、そろそろ子供が欲しいという時期に差し掛かっていた。
さすがに夫の奴も、子供だけはちゃんと自分の子を産んで欲しいと思っていたようである。
でもアタシは、どうせならケンジかユウイチに種付けされたかったのだ。
今日中出しされたらまず間違いなく妊娠するであろう、そんな危険日ど真ん中の日曜日。
「頼む中出しさせてくれ、俺の子を産んでくれ」とすがりつく夫を足蹴にして──アタシはケンジに電話をしていた。
長い付け爪にも慣れて、スムーズに携帯を操作。
トゥルルルル……トゥルルルル……。
この素敵な性生活を送らせてくれるきっかけを作ってくれた男だ。性に奥手で、男遊びをすることなんて考えもしなったアタシを、ここまで黒く染め上げてくれた人。
初めて妊娠するのなら、彼の子以外にはない。アタシはそう固く信じていた。
「認知しろだなんて言わない。夫との間にできた子だと、一生嘘をついて育てていくから……アンタの子を産ませて。アンタに受精させられたいの」
夫がいる前でそう話し、家に来てもらうことにした。
電話を切ると、床に土下座をしたまま涙を流す夫の姿がある。
アタシは彼のアゴを掴んで、クイッと上を向かせる。
そして言い放つ。
「アタシ今日さぁ……ケンジに妊娠させてもらうことにしたから。夜までずっと彼とだけ交尾して、彼の精子だけを子宮に迎え入れるの……。ふふ、いま一番受精しやすくなってるアタシの卵子に……たっぷり精子をぶっ掛けてもらうんだ♪ ちゃんと着床して、二人の遺伝子が一つに絡まり合うまで愛情を確かめ合うつもりなんだけど……。フフ、どう? 絶望してる?」
やっぱり夫婦なのだろうか。夫に寝取られ属性というものが付いてから、自分にも同じような趣味が沸き起こってきていたのだ。
夫の前で、彼の見ている前で──致命的なまでに他の男の女になる。ヤリマンなアタシにぴったりの、刺激的で背徳的なセックス。
コトは取り返しがつかなければつかないほど興奮する。
アタシの背中には今、「所有者一覧」と新しいタトゥーが刻み込まれていて、ケンジやユウイチを始め、彫師のおじさんの名や、ただナンパされただけの男の名、近所の老人の名、知り合いの中学生の名前までもが刻まれている。中には暴力団構成員の名前まである。
その数、全部で十五名。
一生消せないそれら一つ一つの名前を刻み込んでもらう間も、アタシはゾクゾクするような、どうしようもない興奮に心奪われていたのだ。
この一年と半分の間も、夫はうめき泣きながらペニスを勃起させ続けてきた。
もちろん今だって、彼のイチモツはビンビンになっているはずで……。
「おら、パンツ脱げよ……ケンジが来るまでの間、特別に足コキのサービスしてやるからさ」
「ククク、なぁお前……自分の嫁がこれから不良男に妊娠させられるってのに……何でこんな勃起してんだ?」
白く長い付け爪を付けた、小麦色の足。
アタシが柔らかい足裏の部分で亀頭をこすり上げてやると、夫は上下の口からヨダレを垂らしてビクビクと痙攣するのだった。
「うあぁ……ああああ……」
「ふふふ……気持ちいいんだ? なあ、お前やっぱアタシみたいな黒ギャル好きなんじゃね? こういう女に見下されながらシゴかれるのも結構好きなんだろ……ん? なぁ? どうなんだよ……」
くちゃくちゃとガムを噛みながらの、適当な愛撫。
だというのに、夫は無様にも射精寸前といった様子である。
「ククク、無様だなぁ……。何でこんな男と結婚したのか分かんなくなるわ……まぁ、金稼いできてくれるから文句はねーんだけどさ。その金で男と遊びまくれるし……」
「おああぁ……あぁああ……」
ずちゅずちゅずちゅ……。
上下キラキラゴールドの、派手な下着姿のアタシ。そんなアタシの黒ヒョウのような女体に興奮してか──我慢汁だとは思えないほどの粘り気が、すでに足の裏いっぱいに広がっていた。
「うは、臭そうなお汁がいっぱい出てきちゃってんぞ……。ああ、ダメだこれ。絶対すごい匂いになってる……。ケンジが来る前に一回シャワー浴びないと……。ということで──しゅーりょー!」
アタシはなおも切なげに身悶える夫を残して、風呂に入るために立ち上がって下着を脱ぐ。
泣きながら足にしがみ付いてくる夫を振り払い、愛しのケンジのために身体を磨く準備に入るのだった。